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北海道旅行の原理

脱出管にチェーンをセットして動かすために身体を動かすことで、回復できないほど息が切れるかもしれない。 ダイパーが自分の身体をささえる格子の床が抜けるかもしれない。
脱出管を引き抜くことによって、Uボートの船体がくずれるかもしれない。 脱出管が倒れて、ダイバーの出口をふさぐかもしれない。
チャタトンとコーラーで、これらの可能性について話しあった。 これらすべてを現実的な危険と考えた。
彼らは計画の実行を決断した。 チャタトンが、勤め先の産業ダイビング会社からチェーンブロックを借りた。
数回のツアーを予約した。 だが再三、荒天によって、ツアーを断念せざるをえなくなった。
一九九六年のシーズンが終わった。 この無鉄砲ともいえる計画が実行されるとしても、一九九七年まで待たなければならなかった。

ふたりにとって、その冬はのろのろとすぎた。 コーラーが二年のあいだ押さえつけてきたダイビングへの情熱が、ふだんの生活でもわめき叫んでいたものの、外が暖かくなるまで待つほかに彼にはどうすることもできなかった。
チャタトンの夫婦関係の形骸化はやまなかった。 妻のキャシーが新しい仕事についたため、ふたりですごす時間はもっと減った。
夫婦はカウンセリングにかよった。 効果はなかった。
ダイビングのシーズンがはじまったころの一九九七年五月、夫婦は離婚弁護士を雇った。 ただ、おたがいに夏はいろいろとやりたいことがあって忙しいので、秋になるまでは一緒に暮らすことにした。
結婚生活の終わりがせまっているという事実は、チャタトンを打ちのめした。 ある春の日に彼はコーラーに電話をかけた。
「どうしてもいま会って話したいことがある」コーラーは仕事を切りあげて、ウォチュング自然公園でチャタトンと落ちあい、滝のそばや森のなかを歩いた。 チャタトンは、コーラーが苦しみをどうやって乗り越えたか、家庭が崩壊しようしているときでも毎日、自分をどう納得させて仕事に出たかを知りたがった。
つらい気持ちについてこまごまと質問をした。 コーラーはおおかた聞き役だった。
ほとんどどんなことでも時聞が解決してくれると思う、とチャタトンにいったほかは、コーラーはあまり話さなかった。 チャタトンには自分の気持ちを話すこと、彼を大切に思い、気にかけてくれるだれかと一緒にいることが必要なのだとコーラーにはわかっていた。

一九九七年のダイビング・シーズンにそなえて、ニュージャージーのチャーター船の船長たちが船を海に戻して準備していたころ、チャタトンとコーラーは、へンリー・キーツが書いたレック・ダイビームーゲルングの本を読み返していた。 ロードアイランド州にある守フロック島付近に沈む〈U853〉〈UWho〉とまったく同型の第二次世界大戦時のUボートから発見された数枚のタグの写真が、その本に掲載されていた。
タグのほとんどはごく一般的なもので、意味のある文字などはなにも書かれていなかった。 しかし、そのうちの一枚は、ふたりの度肝を抜いた。
〈U853〉と刻まれていたのだ。 チャタトンとコーラーは、〈UWho〉で数十枚のタグを発見した。
だが、こういうふうに艦名を刻んだものは一枚もなかった。 コーラーは電話へ走り、ちょっとした知りあいのキーツにかけた。
「ハンク、きみの本に〈U853〉のタグの写真がたくさん載っているな。 潜水艦のどこでああいうタグを見つけたんだ?」「さあ、知らないね」キ1ツは答えた。
「いまタグはどこにある?〈U1853〉と書かれたタグはだれが持ってるんだ?」「見つけたのはビームーゲルリー・パーマーだと思うけど」「どうもありがとう」コーラーはいった。 ビームーゲルリー・パ!?ーは、質素な暮らしをしながらブロック島の近くで小型ダイビング船〈サンダーフイツシュ〉を走らせる、葉巻をくちゃくちゃと噛む五Oがらみの船長だった。
一流のレック・ダイパーでもある。 チャタトンとコーラーは、ボストン・シー・ローバーズ大会でときどき彼に会ったことがあり、共通の友人もいた。
コーラーは、コネチカット州にあるパーマーの自宅の電話番号をさがして、彼に電話をした。 「〈U1853〉のタグをまだ持っているかい?」試練のときコーラーは尋ねた。
「バケツ数個分あるぞ」パーマは答えた。 「バケツ数個分?」「ああ、そうさ」「〈U1853〉と刻まれたタグをどこで見つけたか覚えていないか?」「、ずいぶんむかしのことだからな、リッチー。

そのときのことはあやふやになってる」コーラーは、自分とチャタトンが彼を訪ねてもかまわないかと尋ねた。 パーマーは、喜んで待っているといってくれた。
つぎの日、ふたりはパーマーの家のドアをたたいた。 パーマーが、首にかけたチェーンに本物の鉄十字勲章をぶらさげて現われた。
彼が〈U853〉で発見した遺物だ。 チャタトンとコーラーは「鉄十字章をかけているのは冗談のつもりかな?」とでもいいたげな目でたがいをちらつと見たものの、意見は口にしなかった。
パーマーは、遺物で埋もれた家のなかを案内してまわった。 ふたりはタグを見たくてうずうずしていた。
パーマーは悠長にかまえていた。 そして最後に彼らを地下室へ連れていった。
船の舵のそばに立つ、女のマネキンを「イーパ」と紹介した。 マネキンは、ドイツ軍の水兵の制服を着て、帽子と外套まで身につけていた。

パーマーがビームーゲルールをくばった。 「あんたらはタグを見たいんだな?」パーマーが尋ねた。
「そうだ、とても見たい」チャタトンは答えた。 パーマーは、ショーケースの上のガラスを持ちあげた。
なかには、少なくとも五O枚のプラスチックのタグがはいっていた。 そのうちの一枚に、〈U1853〉と刻印してあった。
ふたりは座ったまま、口も利けなかった。 コーラーが訊いた。
試練のとき「このタグを、沈没船のどこで見つけたのか教えてもらえないか?」パーマーはふたりに背を向け、マネキンに向きなおった。 「イーパ」彼は静かに呼びかけた。
「O二Oに針路を取れ」チャタトンたちは、パーマーの表情をうかがった。 彼がまじめにイーパに話しかけているのかどうかはわからなかった。
パーマーはうれしそうな笑みを浮かべ、シャツの胸元で鉄十字章を揺らしながら、また話に戻ってきた。 「予備部品のはいった木箱についていた。
靴箱よりひとまわり大きな箱だ」パーマーはいった。 「どこの部屋で?」チャタトンが尋ねた。
「電動機室だよ」ふたりは思わず椅子から飛びあがりそうになった。 「部品箱には、かならずUボートの艦名のラベルが張つであった」パーマーがつづけて説明した。
「そうすれば、任務で部品を使って帰ってきたとき、その箱を倉庫に持っていって中身を補充してからどのUボート巴戻せばいいかわかるからな」チャタトンとコーラーはみじろぎもせずに座っていた。 よりによって電動機室とは。

〈UWhO〉の艦内で、ただ一カ所だけいまだにはいれない場所。 艦名のタグが見つかることはないだろうと予想していた唯一の場所。
これでますます、ディーゼル機関室の一部とそこからつづく電動機室への通路をふさいでいる巨大な鋼鉄の脱出管をぜひとも排除しなければならなくなった。 ふたりは立ちあがって、パーマーに礼を述べた。
「知りたいのはそれだけかい?」パーマーが尋ねた。 話を聞かせてもらってとても助かった、とふたりはパーマーにいった。
そしてまたイーパにちらりと目をやった。 さらに、パーマーに貴重な経験をしたと述べ、別れのあいさつを口にした。

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